051:カミソリ
――アスカ・・・
遠くで小さく
それでも確かに、名前を呼ばれた気がした。
「っ!」
聞き違うことなど、有る筈のない声。
呼ばれた方を振り返っても
先程までと、なんら変わらない景色。
崖の下へ降りて暫く経った。
高く昇った陽は既に傾き始めている。
憎らしいまでに澄み切った空の下。
広がるのは勢いよく流れる渓流。
傍らに広がる森は
変わらず鮮やかに緑葉を揺らす。
幸人がここへ落ちたのは間違いが無いと思う。
途切れたダイノガッツを嗅ぎ取ることは出来ないが
神経を研ぎ澄ますように
アスカは目を閉じて、じっと周りの気配を探る。
――アスカ・・・
確かに、聞こえた微かな声。
声の元を向けば。
なぜ今まで気付けなかったのだろうと思わせるまでの
あるはずの無い空間が、そこに有った。
「これ、は・・・?」
まるでカミソリを引いたかの様な鋭利な亀裂が
変わりない風景の一箇所だけパックリと
大きな口を開けて存在していた。
「何ですか、これは。」
同じ景色の中
亀裂の中だけが、ネガのように変色している。
「ッ、この中に、幸人さんが。」
根拠は無いが、確信できた。
息を呑み、飛び込もうと亀裂に手を伸ばす。
その瞬間。
亀裂の中から強力な閃光が放たれる。
――爆発!?
思うと同時に大地が揺れるような轟音。
「うわぁああああぁあ」
爆風を直に受けたアスカの身体は
防御も空しく、弾き飛んだ。