匂いで分かった。




体付きというか、仕草というか、表情というか、兎に角。


違ったの、違うの、もう、いかにも、「脱処女」っていうあの空気。


女じゃあるまいし、って思う程甘くなったので流石の俺でもビックリした。


そんで、ビックリしたけど、突ついたら面白そうだから構ってみる事にしたわけ。




大人数で囲む食卓。

食べ終わった後の食器。

ストーブでほんのりあたたかいリビング。

仕切りがある所為でなかなかあたたまらないキッチン。

そこに立つのは食事係りのイルーゾォ。


食器を洗うのに邪魔だと一つに髪をまとめ、洋服の袖を捲り上げスポンジに洗剤をたっぷりしみ込ませて。

随分とご機嫌な様子。鼻歌まじりに大量の食器を洗う。




「手伝ってやろうか?」




顔を覗き込んで囁くと鼻歌は止まり「ひっ」と喉から声を漏らしやがった。

おやおや、随分失礼な反応じゃない。




「機嫌が良いね」

「・・・そうか?」




洗い物をしている手が止まってしまった。

俺はイルーゾォが泡だらけにした食器を奪って水で流す。

横目でこちらを見ている。明らかに「どっか行け」という目。




「手伝ってんのにその態度はないんじゃないのー?」




顔をぐぐっと近づけると一歩後ろに後ずさられた。

うーん、近寄ると尚更ヤらしい匂いがするね。

「そういう」痕がないかとよーく体を見てやると、おお、あるじゃないの、首筋にうっ血した部分が。




「あれ?アンタ首どうした?」




明らかにキスマークだったけど、素知らぬフリで尋ねる。

イルーゾォは「首?」と、呟きながら顔を下に向けた。

馬鹿だな。自分で自分の首が見えるかよ。




「泡でもついてんのか?」




はぐらかすとか、誤魔化すとかじゃなくて、ごく普通にそう返された。

もしかして、そのキスマーク気付いてないのか?

ああ、でもそうだな。今は髪を一つに結んでいるから見えるけど、下ろしてしまえば見えない位置か。




「いや、気のせいだ。なんでもない」




ふむ、違う切り口から攻めないと面白くないな。

食器の泡を水で流しながら考える。




「アンタ、男相手にした事ってある?」

「は?」

「男相手の”お仕事”って経験あった?」

「・・・馬鹿にしてんのか。あるに決まってるだろ」

「へえ!意外」

「男の方が多いくらいだよ」

「なんだよ、案外やり手なんだな!初めては、いつ?」

「はあ?初めては、チームに来て一ヶ月経った頃だろ」

「ええ!相手は?」

「ええと、神経質そうな感じの・・・」

「ほほう!」

「すぐ終わったけどな」

「早漏ってやつか!」

「は?」

「え?」

「お前、なんの話してる?」

「何って、ナニだろ。セックスの話」

「・・・・・っばかか!!」

「え〜?アンタはなんの話してたんだ?」

「”仕事”だろ!俺達の、仕事の話!!」




どうやら会話は噛み合っていなかった様だ。

それでも成立していたんだから凄い。

イルーゾォは唇を尖らせて力任せに食器を洗う。




「でもさ〜、お前最近恋人出来ただろう?」




俺の言葉を聞いてイルーゾォの手が止まった。

うんうん、良いね、その反応。




「凄く、アンタからセックスの匂いすんだよ」

「そんな匂いあるのかよ!」

「あるさ」




唇がわなわなと震えている。

おお、やっぱり最近他人とベッドに入ったんだ。

というか、見当はついてるんだ。

こいつの相手はホルマジオしかいない。




「で、どうなの?」

「なにが!」

「気持ち良かった?」

「う、う、うるさいぞ!!」

「俺は普通だろ。うるさいのはアンタの声だよ」

「お前には関係ない!」

「そうだね。でも、知りたいから聞いてるんじゃないの。ね、ね、アンタが下だったの?それとも上?」

「下?」

「抱かれたの?」

「抱かれちゃいけないのかよっ!!」

「ほー、相手は男でアンタは猫だったのか」




俺が言うとイルーゾォは耳まで真っ赤になって声を裏返らせながら「うるさい!」と叫んだ。




「で、相手は誰?チームのメンバー?」

「ち、違う!」




目が泳いだ。

リーダーとプロシュートはデキてるし、ギアッチョは俺が見張ってるし、ペッシはノーマルだし、ほら、もう一人しかいないじゃん。

まあ、騙されてやりますか。




「ね、ね、その相手って上手い?大きい?」

「そんなの分かんねえよ」

「なんで?」

「・・・男相手にしたのは初めてだ」

「そうか!処女だったか!」

「お前のそういうとこが嫌いだ!」

「何も恥ずかしがる事じゃないだろう。へ〜、じゃあ、イけた?」

「は?」

「後ろでイけた?」

「・・・・・お前もう手伝わなくて良いからどっか行け!!」




イルーゾォはそう叫んで泡だらけのスポンジを俺の顔面に投げつけた。

至近距離だったから避ける間もなく見事ど真ん中にスポンジをくらってしまった俺はほんの少し腹が立ったので奴の一つに結っている髪を思いっきり引っ張ってやった。




「い、痛い痛い痛い!はなせ馬鹿野郎!!」

「アンタが先にこんなもん投げてきたんだろ!」




イルーゾォも負けじと俺の髪を引っ張る。

スポンジが床に落ちてそれを踏んだ俺達は互いの髪を引っ張り合っていた手を離せずに一緒に床に倒れこんだ。




「いてえ・・・」

「どけよメローネ!」




自分の指先を見ると長い黒髪が数本絡んでいる。暴れているうちに抜けてしまったらしい。

ふと指よりも奥に焦点を合わせると俺の下にイルーゾォが居た。

どうやら俺が押し倒してしまったらしい。




「良い眺めだ!」

「なにが!!」

「こんな感じでセックスしたのか?」




髪の毛の絡んだ手をイルーゾォの足、膝裏に持っていきひょいと片足を持ち上げて自分の体を両足の間にねじ込む。




「ね、正常位でヤった?」




腰を進めてイルーゾォの尻に股間を数回押し付けると「やめろ!」と怒って暴れたが片足が持ち上げられている所為でうまく動けないらしく俺から逃げられずにもどかしそう。




「違うの?じゃあ、バックかな?」




掴んでいた足を下ろしてやり体を反転させてうつ伏せに。背中に密着して腰を数回動かしてやると「いや」と震えた声で抗議された。

おお、どうやら初体験はバックだったようだ。

猫には恥ずかしい格好だが、初めてなら挿れやすいのはバックだし。多分ホルマジオも男相手にヤった事なんて無いだろうからこれが無難か。

体重をかけたまま腰を掴む。思ったよりも痩せてるな。そのまま手を動かして太ももや腹を撫でると「退けよ」と弱々しい声で言われた。

ふむ、そう言いつつも無防備な腹に手が回ると体が跳ねるのはなんでだろうね。




「ね、どこが感じるの?」

「うるさい・・・!」

「中のさ、背中の方?腹の方?奥が良いの?手前のが良い?」

「言うわけないだろ!・・・そんな事お前が知ってどうすんだよ!」

「指挿れても良い?」

「駄目だ!駄目にきまってんだろう!」




うーん。そう言われても、この匂いはかなり欲情するなあ、首筋に顔を寄せて匂いを嗅ぐと喉が渇くくらい甘い香りがした。

俺は挿れるより挿れられる方がどちらかと言うと好きなんだけどな、贅沢言ってらんないか。




「大丈夫俺上手いから」




さらに背中に体重を預けて体を押しつぶし、腰だけ高く上げた格好。二人そろって猫みたいだ。

片手でイルーゾォのズボンを乱しながらもう一方の手、指先で服越しに後ろの入口を撫でると冷たい床の上に落ちている拳に力が入った。




「ふ、ふざけるな・・・!どけよ、どけってばっ!」

「良いじゃん、減るもんじゃないし」


「いいや、減る」


頭上から怒気を孕んだ低い声がしたので振り返ると液体洗剤が降ってきた。




「いて、ちょ、冷たいし、目に入っ・・・いってー!!」

「いやあ、イルーゾォに汚れがついてたから洗ってやろうと思ってなあ」




ああ、畜生、王子様のお出ましってわけか。

この声はホルマジオだ。

俺は頭から洗剤をぶっかけられて、それが垂れて目に入り激痛でイル―ゾォの上から飛び退いた。




「お前、イルーゾォ相手に欲情したのか」

「だって、こいつの匂い、凄いじゃん」

「匂いなんてしないだろ!」




目を瞑ったまま流しまで手探りで行き、なんとか洗剤を流して目を開くとイルーゾォが真っ赤な顔して俺を睨んでいる。




「いいや、するぜ。ホルマジオ、お前は分かってんだろ?」

「まあ、フェロモンてやつかな」

「こないだまでなんの匂いもしなかったんだぜ」

「まあ、いろいろあんだろ」




言いながらホルマジオはイルーゾォを床から起こし乱れた髪を手櫛で梳いてやっている。

うわー、嬉しそうな顔しちゃってさ二人とも。




「そんな女みたいな匂い振りまいてたら犯されるぞ」

「お前みたいな変態でもいない限り犯されたりしない!」




ホルマジオが来たおかげでさっきよりも強気になったイルーゾォが言う。

ちぇ、面白そうだから突ついたのに逆に痛い目をみた。

これで引きさがるのも面白くないから捨て台詞でも吐いて消えよう。




「でも、アンタさあ。ヤってる時の声ちょーデカイね。ホルマジオに口塞いでもらってた方が良いと思うけど?」




俺の言葉を聞いてイルーゾォは一瞬「はあ?」という顔をしたけどすぐに意味を理解したようで、口をパクパクさせて顔を覆いしゃがみこんだ。




「ど淫乱」




自分でも意地悪くにやついてるのが分かったけどこいつをいじめるのは面白くてやめられない。

ホルマジオに殴られる前にさっさと部屋を飛び出すとドア越しにイル―ゾォが泣きながら怒っている声が聞こえた。




「俺声大きかったの!?」「いや、まあ、な?」「なんで相手がホルマジオってバレたんだ!!」「さあ、うん、な?」「た、体位も、バレ・・・」「・・・そうか」




その後しばらくの間、イルーゾォのすすり泣く声が止まず、ようやく止んだかと思えば今度はどうやらリビングの壁掛けの鏡の中にお得意の引き篭もり。




「まあ、気が済んだら出てくんだろ」




翌日。丸一日鏡の前でイルーゾォに出てくる様説得し続けたホルマジオは目の下にクマを作って苦笑しながら言った。


当然その間俺達はインスタントの飯を食う羽目になって俺はギアッチョとプロシュートにぼこぼこにされたわけだけど。


「お前は本当にロクな事しねえ」と怒られて。でも、ろくでもない事ばかりじゃないと思うんだよね。


引き篭もり二日目の晩、ようやく鏡から出てきたイルーゾォをホルマジオは鏡のこちら側から受け止めて「やっと気が済んだか」と笑いながらキスをしていた。


その時のイル―ゾォの嬉しそうな顔ときたら。ね?


なかなか出てこないから流石の俺も良心が痛んでこっそり夜中に覗いたリビング。


暗闇の中浮かんでいる炎はホルマジオの左手の指に挟まれている煙草か。


何時までキスしてんだよ、早くしないと煙草の灰が落ちて家が燃えるぜ。




幸せそうな面を見ていたら腹が立ってきたので突ついてやろうとドアの隙間から声をかけた。




「俺もまぜて」




・・・・・。




次にイルーゾォが出てきたのは3日後で、俺の目の上の青あざが消えたのはさらにその一週間後の事だ。































「甘いモナコへ逃げよう」














774/浅野さん

774の浅野さんより相互記念に頂きました。
ホルイル+メローネなんて面倒なリクエスト受けてくださり有難う御座います。
イルーゾォが可愛い。兎に角それに尽きます。もう、本当に可愛いんだ。ホルが男前過ぎて困ります。結婚してください。
そして個人的に浅野さん宅のメローネの口調や喋るテンポが好きなのです。男前で変態で可愛くて。(褒め言葉)
へへへ家宝にするんだ!頂いたのだからもうダイキのだもんね!
すみません大事にします本当に。有難うございます!
2style.net