【亜・symmetry】



「ねえアラタ、ペット買おうよペット!
 犬飼いたい。小型犬。
 こないだテレビでペット特集やってて思ったの。
 やっぱり犬いたら絶対楽しいよ!」

 ……とうるさく騒いでいた満ちるが最近静かになったと思ったら、
 突然観葉植物なんかを買って来た。
 基本的に水にさしておけばいいようなやつだ。

 なるほど、ペットとしては犬より安上がりだしお手軽だ。
 すぐ飽きるかと思ったら案外ちゃんと水をやってる。
 もっとも、こいつのことだからいつまで続くかは疑わしいが。

「新さあ、昨日何時に帰って来た?」
「え? えーと……十二時くらいかな」
「嘘だよ。私十二時までは起きてたもん」
「じゃ満ちるが寝た直後かな」
「……ふうん」
「しょうがないだろ。
 忙しくてなかなかバイト上がれなかったんだよ」
「別に責めてないじゃん」
「言葉ではな」

 すねたような口調でつぶやきながら、
 ペットを撫でるように葉をつつく満ちるの腕には、
 テープで血のにじんだガーゼが雑に貼られている。
 そして満ちるは
 半透明な液体の栄養剤をポタポタと植物に垂らしていく。
 ガーゼを巻かなきゃいけないほど
 怪我をしているから不機嫌……といったらいいのか、
 はたまた不機嫌だから怪我をするはめになったといっていいのか。

「なあ、満ちる、そのクセ直せって。見てるこっちが痛々しいよ」
「直したいとは思ってるけど気付くとやっちゃうんだもん。
 自分でも困ってるんだよ」

 正直もう見てるだけでうんざりではある。
 だって死にたい訳じゃないんだこいつは。
 だからって僕にはどうすることもできない。
 だからその場に僕がいれば止めるか手当てをする。
 もう、それだけだ。

 そんなことを考えているあいだ、
 満ちるはずっと栄養剤をやり続けていた。

「おい、あんまり栄養剤やるなよ。腐るぞ」
「なんで? 栄養は多いほうがいいじゃん。
 早く大きくなって早く花咲いて欲しいんだもん」

 ほらこれだ。
 もう、僕がこいつに対して
 おなかいっぱいだってことは理解してもらえると思う。
 面倒くさくなって、ああそうだね、とだけ応えた。


 僕らはいとこだが全く似てない。
 外見も似てないし性格も正反対だ。
 もちろん気も合わない。

 一緒に暮らしているのは、こういう危ういクセのある満ちるに
 一人暮らしはさせられないという親達の差し金からだった。

 だけど。


「ねえねえ」
「なに……な、んだよ!」

 ふいに腕をつかまれ引っ張られ、
 バランスを崩して座り込んでしまった。
 満ちるは僕にはお構いなしで勝手に僕の服の袖をまくりあげる。


 ……ああ。


「傷、だいぶ目立たなくなったね」
「……うん」


 そうなんだ。
 僕らは正反対じゃないし、
 ましてや僕だけがしっかりしている訳でもない。

 僕らは根っこの部分が似過ぎている。
 いまの満ちるは中学生のときの僕に瓜二つで、
 いまの僕は
 当時僕の面倒を引き受けていた満ちるにそっくりだ。


「多分さあ、私、生まれ変わったら新になるんだろうね」


 それでいて僕らは
 交代交代に依存する側とされる側をくりかえし、
 永遠に正反対でありつづける。


「そんで新は生まれ変わったら私になるんだよ」


 きっと僕らは、大嫌いなお互いを憎みあいながら。


「……そうかもね」


 それでも愛してやまないから苦しいのかもしれない。


                         Fin_■


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