|
「近くに来たからお見舞いに」 病室のドアを開けるなりそう言ったのは、これで会うのは三度目となる、君だった。 一度目はテニス部の新入部員として挨拶に来たとき、二度目は怪我をして病院に来たとき。 明らかにナイフで刺されたような傷が印象深く、という人物が強く俺の胸に刻まれた。 だって普通に生活していたらナイフで刺される、なんて貴重な体験はできない。だけどその謎を本人に聞いてはいけないのだと、直感で悟った。 君が手に持った袋には、りんごが入ってた。 「わざわざありがとう、君。腕の方はもう、大丈夫?」 差しさわりのない程度に腕を心配すると、「大丈夫、それと、でいい」と返事が返ってきた。 神経が切れていなかったのが不幸中の幸いだと、あのとき医者は言っていた。 ブンブン、ともう完治したことをアピールするように腕を振る彼に、少しだけ安心した。 「どう、部活のほうは?」 「んー。楽しい。でもってめちゃくちゃ疲れる」 俺、結構まじめに練習やってんだぜ、と得意気に言う。 ( ちょっと雰囲気変わったなあ ) 前会ったときは、もっとクール、というか、ポーカーフェイスなんだと思っていた。今は表情が明るい。それでもまだポーカーフェイスの領域だと思うけど。 「なあ、りんご剥いたげよっか?」 「剥けるのかい?」 小悪魔のようには微笑んだ。 「ほんとに剥けるんだ」 「まーね」 真っ白な皿の上に、りんごが置かれた。 血がにじんでる様子もない、形も整ってる。茶色に変色もしてない。意外な特技。 手に取って、口に含んだ。も、口にほおばる。 シャリシャリ、という音が病室に響いた。 「なあ、俺大分強くなったんだ。ほら、前言ってたじゃん、試合」 「ああ、そういえば、試合したいね」 「早く退院して、やろーな」 もう一つ、はりんごを口に入れた。そうして、立ち上がる。 「そろそろ部活の時間だから、行くわ」 「ああ、りんごありがとう。部活、がんばって」 「おうよー。幸村も。早く元気んなってよ」 手を軽く振って、は病室のドアに手をかけた。 「あ、」 くる、と振り向く。 「皿のうえ、よく見て」 にやり、と笑って、は出て行った。 ( 皿の上? ) の方を見ながら食べていたから、皿の上はよく見ていない。 何があるのか、期待を寄せながら、目の前の白い皿を見た。 「……ちょっと、」 ププ、と噴出しそうになるのを抑える。 皿の上には、うさぎの形をしたりんごが、他のりんごに混ざって置いてあった。 ( おもしろい子だなあ ) 早く退院したいな、そう思った1日だった。 2006.3.10 雨宮ノアさまリクエスト 後書きはメールにて送らせていただきました。 |