ミナモシティ。

今はちょうどコンテストが開かれる時期で、町中がより活気に満ちているように見える。会場までの路上には、様々な露店が出店していて、食べ物を買う人も多く見受けられた。わたしとしては(いや、たぶんサトシもハルカもみんな)こういうにぎやかな雰囲気がとてもすきで、正直嬉しくてたまらないのだけど、隣のハルカは珍しく(といったらきっと全力で否定されるだろうなぁ)食べ物にあまり興味を示さず、コンテスト会場をしっかりと見つめている。


「ハル」
「ハルカくん」


力強く握りしめられた手は、きっとここにきているだろう彼女のライバルにむけられたもの。それを見て、名前を呼ぼうと自然に出た声は、ちょうどその彼のそれによってさえぎられた。振り返らなくたってわかる。その若さで多くの女性を虜にした有名人の声を聞き間違えるわけがない。


「シュウ!」
くんもいたんだね」
「久しぶり、元気そうね」


わたしはおまけか、と少し思ったけど、よく分かっていることだった。


「シュウ、明日は負けないかも!新しい技も考えてきてるんだからね!」
「それは楽しみにしているよハルカくん」
「そういえばロゼリアがいないかも」
「今はポケモンセンターで最終調整中なんだ」


私をよそに交わされる会話。わたしは、おまけですらないのだ。ポケモンリーグを目指すものと、グランドフェスティバルを目指すものの差。誇りをもって一本の道を進むひと同士の会話に、わたしは決してはいることはできない。(これは、ふたりのバトルの話)そう、サトシとわたしがするように。そう思っていても、胸のもやもやは消えてはくれなかった。なんなんだろう、この、気持ちは。(わたし、は?)


くん?」
?大丈夫?」


深いこころのそこから、ふたりの声で呼び戻されると、心配げな瞳が四つ、わたしを見つめていた。いつの間にか彼らのお話は終わっていたみたいで、正直、わたしにはなんの話をしていたのかわからない。


「え、あ、なに?」
「なにって…」
「ぼーっとしてるから心配したかもっ!」
「あ、ごめん…」
「どうかしたのかい?」
「え、あ、ふたりを見てたら、次のジム戦が気になっちゃって!ちょっと、わたしジムみてくるね!」


なんとなく居づらくなって、逃げるようにしてふたりの前から走り去った。(ばれなかったかな…)会場を出て、人の多い道へ帰ってきた。ふたりが一緒にいるのを見てられなかった。なんだ、わたし、ハルカに嫉妬してたのか。わかればとても簡単ですべてに理由をつけることができたけど、現実のがやがやとにぎやかなところにいるはずなのに、どうしてか地に足がついてる感じがしなかった。ふらふらとゆく当てもなく歩いていると、海が見えた。きらきらと水面に夕日が反射して、少しオレンジがかったその色は、ひどくわたしを安心させた。…もうすぐ暗くなるから、サトシたちのところへ帰らないと。そう思って立ち上がると、うしろからくん?と控えめな声がかかった。


「シュウ?!なんでここに、ハルカは?」
「おなかが空いたから、って露店の方へ。それからポケモンセンターで調整するそうだよ」
「そう、なんだ。あ、シュウは?これからどうするの?」
「僕かい?そうだな…くんのこの後の予定は?」
「わ、わたし?特になにも…」
「それじゃあ、一緒に露店でも見て回らないかい?こんなににぎやかなのは久しぶりだから」


思いもしない提案に、しどろもどろになりながら、喜んで、と返事すると、シュウは口元をゆるませた(ように、わたしには見えた)。わたしでいいんですか、ハルカじゃなくて、わたしで?もちろん、彼が引き留める間もなく彼女が行ってしまって誘う暇もなかったから、だとか、今回だけ特別だろうとか、そんな考えが浮かんでは消えたけど、今だけはめいっぱい彼を独占させてもらうことにしよう。明日のコンテストでは、きっとハルカが独占してしまうから。


「なんか、シュウとふたりきりで街を歩くのって、すごく変な感じ」
「まあ、いつもはうるさいくらい騒ぎたてる誰かさんがいるからね」


苦労してますといわんばかりに肩をすくめるシュウを見て、ハルカには悪いと思いつつも笑ってしまった。続けて、そのひとも誘わなくてよかったの?と訪ねてみたら、いつもよりも自信にみちた意地悪な顔で、彼は笑った。


「誘ってしまうと、どこかのお姫様が不機嫌になるらしくて」






(ちょっと、シュウ、待ってよ!いまの、どういう意味?!)
(へえくん、お姫様にこころあたりでもあるのかい?)
(…この!)

09.03.27/大沢柚子


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