!」


(声がきこえる。よばれているのは、わたし?)
どれだけわたしがそのつもりでも、体中にちからが入らない、動いてくれない。目はおそらく開いていると思うのに、景色がすっかりぼやけてしまっている。やんわりとした金がちらちらと視界にうつる。蛍のようだとおもった。そしてわたしは、この蛍の正体をしっているのだろう、ほほの辺りに、温かいなにかをかんじる。
(何かかんじる。よばれているのは、わたし)


、しっかりしろ、頼むから、」


ほら、この声は間違えたりなんてしない。それじゃあ、ほほの温かいものは、あなたの手。いつもわたしを安心させてくれる、やさしいてのひら。でもいつもと違って、あなたがみえない。明るい笑顔が、すんだひとみが、


「ジー、ク?どこにいるの、さっきからほとんどものが見えなくて」
「おまえ、目が」


(きちんと笑えたかはわかないけれど、)たしかに彼がいることに安心して小さく笑ってみせると、空気がわずかにふるえたことがわかった。それしかわからない。ここだよ、オレは、ここにいる、そうやって何度もつぶやいては、わたしの動かない体をきゅうと抱きしめてくれるのは、さっきの蛍に間違いないんでしょう。ねえジーク。


「どうしたの、ジーク、わたしはなんでもないよ」
「おまえがそういうんなら、そうなんだろうな、わかってるよ」


だいじょうぶだ、と繰り返しつぶやきながら、彼は肩をふるわせた。さきほどより腕に力がはいり、痛いと思うことこそなかったけれど、こころがきしむ音がきこえた。彼を泣かせているのはだれ?できればなにかしてあげたいけれど、なでることも、だきしめることも、なにひとつできない今、わたしはただ悲しい顔をすることしかできない。


「そんな顔するな、どこか痛むのか?」
「そんなことない、元気」
「そうか」


ようやっと、ジークがほほえんだ気がした。おひさまみたいに、あたたかで優しい笑顔、それだけでわたしも幸せになれるのよ、ジーク。そして、そのままやさしいキスと、あたたかなしずくが顔にふってきて、相変わらず景色はぼけたままで、蛍しかみえなかったけれど、彼がくるしんでいることだけがひしひしと伝わってきた。いつも優しいおひさまが、くもに覆われていくような頼りなさが、こころを支配する。待ってて、すぐに、わたしが、 晴らしてあげるから、
なにひとつできない体でも、ただあなたの支えになれればよいのに。

そのとき、ひどく、わたしは彼に笑って欲しいと思ったのです。


こわれて、おちた


(でも、その彼の顔が晴れることはなく、ちらちらとかすんだ蛍さえも消えてしまい、わたしはひとりになりました)
(やさしくておおきなてのひらはそこにあるのに、なにも、見ることも、聞くこともできないのです)
(ただ、あなたがいつものように笑ってくれれば、きっと全部元にもどるのしょう。だから、)

09.03.26/大沢柚子



2style.net